コープスブライド(民話)

英語のサイトから訳出した「ティム・バートンのコープスブライド」の霊感源となったと言われる民話。ガセかもしれないが、自分としてはよくわからないディテールやくどい言い回し、超展開も含めてけっこう気に入っているので載せた。ここのところ忙しいので訳は雑だが、ちょこちょこ直していくつもり。



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かつて、あるロシアの村に若い男が住んでいた。男は近く結婚することになっており、友人と共に花嫁となる相手の住む村へ行く準備をしていた。自分の村からは歩いて二日ほどの道のりである。

最初の晩、ふたりの男は川のほとりで野宿をすることに決めた。そのとき、これから結婚する方の若い男は、地面から指の骨のように見える奇妙な棒が突き出ているのを見つけた。彼と友人は悪ふざけを開始し、男は金の結婚指輪をポケットから取り出し、その奇妙な棒にはめた。そして、婚礼の踊りをはじめ、棒のまわりを三度回っている間、ユダヤの結婚の歌を歌い、婚姻の秘蹟をまるごと暗誦した。その間、彼とその友人は笑い転げていた。

お楽しみが突如終わりを迎えたのは、地面がごろごろと音を立てて鳴り、足の下で震えはじめたときのことだった。棒があった場所がぱっくりと開け、ひどく汚れた屍体、生きている屍体が現れた。彼女は花嫁の姿をしていたが、今やそれは皮膚の断片によってくっ付き、白く破れた絹のウェディングドレスを未だ纏っている骸骨以上のものではなかった。虫とくもの巣がビーズの胴着とぼろのヴェールに絡みついていた。
「あなたは婚礼の踊りを行い、結婚の誓いを宣言し、わたしに指輪をはめました。いまや私たちは夫婦です。花嫁としての権利を要求します」

屍体の花嫁の言葉に恐怖で震え上がり、ふたりの若い男は花嫁が結婚を待っている村に逃げこんだ。彼らはまっすぐにラビの下へ行き、息つく間もなくたずねた。
「ラビ、とても大事な質問があります。もし何かの偶然で森を歩いていて、たまたま長い指の骨みたいにみえる棒が地面から突き出しているのを見て、そこに金の指輪をはめて婚礼の踊りをして結婚の誓いを宣言したら、これは本当の結婚になってしまうのでしょうか?」

ひどく困惑して、ラビは訊いた。
「そんな状況があるものだろうか」
「いえいえ、もちろんありませんよ。単なる仮定の話です」
思慮深げに長いひげをなで、ラビは言った。
「考えさせてくれ」
ちょうどそのとき突風がドアを開けて吹き込み、死体の花嫁が歩いて入ってきた。
「私は自分の夫としてその男に権利を主張します。なぜなら指に結婚指輪をはめ、厳粛な結婚の誓いをしたのですから」
彼女は骨の指を新郎に向かって振り、かたかた鳴らしながらそう要求した。

「これは大変困ったことになった。他のラビに相談せんと」ラビは言った。すぐに周辺の村から全てのラビが集められた。ふたりの若い男が決断を不安げに待つあいだ、彼らは会議を始めた。屍体の花嫁は足で地面を軽く叩きながらポーチで待っていた。
「私、夫との初夜を祝いたいわ」

暖かい夏の日だったにも関わらず、このぞっとするような言葉が若い男を総毛だたせた。ラビが話し込んでいる間に、本物の人間の花嫁が到着し、騒ぎの一部始終を知りたがった。婚約者が事態を説明すると、彼女はしくしく泣き始めた。「人生おしまいよ。夢も希望もないわ。もう結婚しない、家庭も作らない」

そのとき、ラビが出てきて尋ねた。「お前は本当に指に金の指輪をはめ、その周りを三回まわり、結婚の誓いをはじめから全部したのかい」この時まで遠くの隅で縮こまっていたふたりの若い男はうなずいた。

ひどく深刻な表情でラビはふたたび話し合いに戻った。若い花嫁は苦い涙を流し、一方で屍体の花嫁は今や長いこと待たされた初夜への期待でさも満足げにしていた。少し間をおいて、ラビたちはいかめしく現れ、席に着き、言った。
「お前は死体の花嫁の指に結婚指輪をはめ、結婚の誓いを唱えながらそのまわりを踊って三周したのだから、これは適切な婚礼の儀式だとわれわれは決定する。とはいえ、死者は生者に権利をもつことはない」

四隅から吐息とざわめきが聞こえてきた。とりわけ若い花嫁は安心した。屍体の花嫁は、しかし、うなり声を上げた。
「ああ、私の一生の最後のチャンスは去ってしまった。もう夢が叶うことはない。永久に失われてしまった」そして彼女は床に崩れ落ちた。それは痛ましい光景だった。ぼろのウェディングガウンの中に骨の山が散らばっていた。生もなく。

屍体の花嫁への同情に打たれて、若い花嫁はひざをつき、古い骨をかきあつめ、注意深くちぎれた絹の美しい服を整え、自分の方に近づけた。半ば歌うように、半ばつぶやくように、あたかも泣く子をあやすように口にした。「心配いらない。私はあなたの夢を生き、望みを生きる。あなたのためにあなたの子供をつくる、たくさんこどもを作ったら、私のこどもたちとそのこどもたちが、ちゃんと愛され私たちを忘れないのを知って、あなたは安心して休めるでしょう」

彼女はそっと屍体の花嫁の目を閉じ、やさしくその壊れやすい骸を腕にかかえ、ゆっくりと慎重な歩みで川のほとりへ降り、浅い墓を掘ってそこへ横たえた。胸の骨に手の骨が交差するようにして、指輪をはめた一方の手にもう一方を重ね、ウェディングガウンを折りたたんだ。そして彼女は囁いた。
「安心して休んでね、私はあなたの夢を生きる。心配しないで、忘れないから」

屍体の花嫁は新しい墓で穏やかに幸福そうに見えた。あたかも彼女の望みが若い花嫁によって叶えられるのを知っているかのように。そして彼女は浅い墓の中でゆっくりと死体の花嫁を覆い、ぼろになったウェディングガウンを覆い、全身に土をかぶせた。墓の周りに野生の花と石を供えた。

それから若い花嫁は彼女の婚約者のところに戻り、とても厳粛な婚礼の儀式のなかで結婚した。彼らはともに幸福な歳月を歩んだ。そして彼らの子供たち、孫たち、ひ孫たちは皆、いつも屍体の花嫁の話を聞いた。屍体の花嫁は忘れられなかった。それは母親が教えた知恵と情け深い心についても同様である。