夜の皇帝

 夜の皇帝が砂原を旅する人々のために星の雨を降らして、金の路を作りました。その真中に夜の黒い泉を湧かして孤独な人々を癒してやりました。すると大勢の人がやって来て星の雨をかき集め、泉のまわりに柵をして、水を飲む人からお金を取りました。そのくせ得体の知れない黒い水には種々の噂が絶えませんでした。
 夜の皇帝はこんな意地の悪い人々を憎んで、泉を涸らしてしまいました。金の路にはさそりがはびこるようになりました。
 旅人からお金を取った人々は大層困って「何という意地の悪い王さまだろう」と、夜の皇帝を怨みました。
 夜の皇帝は言いました。
「私はお前たちのためにこの路をこしらえたのではない。寂しさのためにこしらえたのだ」

夢野久作「森の神」の翻案)