シャルダン展@三菱一号美術館

今日は長いこと楽しみにしていたシャルダン展(初日!)を観に行ってきました。大学一年のときに美術史の授業のスライドでみて以来のファンです。とはいえ、古典絵画に関しては近・現代美術以上に知識がないので、思ったことを少しだけ。

フライヤー等で取り上げられているのは、「食前の祈り」や上の「木いちごの籠」といった、シャルダンが風俗画を手がけるようになり、経済的に余裕が出てからの中期〜後期作品(と括っていいのかな?)ですが、これらロココ趣味を経た滑らかで流麗な作品よりも、個人的には初期(1720〜30年代)の静物画、特に野兎や生肉なんかを描いたものに惹かれました。厚塗りで、泥の匂いに溢れていてやや野暮ったく、たしかにフライヤーには使えないよねと納得してしまう反面、画面といざ対峙したときに受ける情熱の絶対量みたいなものは、こちらの方がぐっと多い気がします。鈍く圧倒される感じ。

風俗画のキャプションに書かれていたシャルダンの「やさしさ」みたいな要素に関しては、自分としては懐疑的で、女のヒトのやさしげな表情などはけっこうステレオタイプに乗っかってる部分もあるのではという印象を受けます。少女の肖像なんてなにやらビスクドールを見ているようでしたし*1。これは貶しているのではなく「やさしい」と評するのはどこか違うんじゃないか、と言っているだけですが、少なくとも僕には、にんにくやら鍋やらを描いているときのほうがずっと感情表現が肌理細やかに見えました。こちらは厳格でシビアで惜しみないやさしさ。とはいえ、ならば中期・後期作品は情熱に欠けるマンネリなのか、と言われれば勿論そんな筈もなく、どれも思わず幻惑されるような典雅な佇まいで、展覧会全体を通して作品ひとつひとつが豊かに響き合うような、そんな雰囲気がありました。雄弁な静寂、なんていうのもいささか紋切り型ではありますが。

あと現代っ子としては安易ながらやはりモランディを連想してしまいます。一見単調な静物画の反復が人をまったく飽きさせないところとか。機会を見てもう1・2回行けたらいいなと思います。


*1ロココっていうのは元々そういうものなんだろう、という気はしますが、情感たっぷりの初期静物画を見た後だとコントラストでロココ調の作品の非人間性が際立って見えるのです。